科学的に数量化しにくい気持ちや意識を社会調査で明らかにする


研究室 Pick UP!! 地域社会学研究室


 地域社会学研究室で研究・教育しているのは「コミュニティ」、すなわち、同じ地域に居住している共同体についてです。コミュニティの研究で大切にしていることは “異質・多様性の受容”、言い換えれば “いろいろな考えを認め合うこと” をモットーに、暮らしやすい社会やコミュニティを構築する方法を「社会調査」の手法を使って検討しています。


量的調査・質的調査とは?

 社会調査におけるリサーチ方法は、大きく分けて2種類あります。1つは、調査によって得られた数多くの回答(データ)を統計的に解析し、科学的な解釈を行う「量的調査」です。社会調査と聞いて、一般の方が連想するアンケート調査などは、この量的調査に分類されます。もう1つの方法は「質的調査」とよばれる手法です。質的調査では、インタビューや面談などを行い、調査対象を深く掘り下げて解釈することで、数量化されたデータでは表現しにくい物事の本質を見出すことを目的とします。

 私たちの研究室では、アンケート調査などの量的調査だけでなく、インタビューや対話などの質的調査、さらにブログやSNSの書き込みの分析など、多面的な手法を用いることで、多くの人の声や考え、意識を探る社会調査を実施しています。

量的調査と質的調査はどちらが優れているというわけではなく、お互いの長所・短所を補い合う関係です


「ペットとコミュニティ」をテーマに 米国ニューヨークで社会調査を実施

 私たちの研究テーマの一つが 「ペットフレンドリーなコミュニティ」 です。この研究では、ペットと飼い主、そして近隣住民がより良く暮らしていくために、どのようなコミュニティが求められるのかをテーマに、飼い主の性別や収入、1日の散歩量、エサの種類や量、ペット友人の有無、ペットの歯周病ケアの頻度などの項目について、2013年から4回にわたり、米国ニューヨーク市とカリフォルニア州バークレー市にて社会調査を実施しました。

 

 地元のドッグパーク利用者を対象にしたアンケート調査の結果、ペットの年齢や種類によって、ペット友人のネットワークが大きく異なること、そして、飼い主からイヌへの歯周病の伝播は、食器やベッドの共有、ケアの頻度、居住条件が影響していることが判明しました1, 2)。

 これまでの社会学的な調査では、地域や家族の中に「ペット」を取り入れて研究することはありませんでした。そうした意味で、現在、本研究室が取り組んでいるテーマは非常に画期的で、今後の展開を含めてさらなる成果が期待されています。また、この秋にはこれまでの調査データをまとめた報告書3) を刊行します。



地域社会学研究室 

大倉 健宏 教授


1) 大倉健宏, 「ペットフレンドリーなコミュニティ―イヌとヒトの親密性・コミュニティ疫学試論」, ハーベスト社 (2016).

2) 大倉健宏, 原田公, Lynch Jonathan: “異文化をフィールドで学ぶ―環境科学科における学生海外研修の事例から―”, 麻布大学雑誌, 30, 43-62 (2018).

3) 大倉健宏, 「エンゲージ(Engage)された空間――ペットフレンドリーなコミュニティの条件」, 学文社 (in press).