環境変化に鋭敏なサンゴと褐虫藻との共生関係を分析化学の視点から解明する

(研究室 Pick UP!! 環境分析学研究室)


栄養塩の少ない海域で豊かな生態系を維持するサンゴ礁生物

 沖縄などの熱帯~亜熱帯の浅海域では、サンゴやイソギンチャクなどのサンゴ礁生物が発達し、豊かな生態系を維持しています。一方で、サンゴ礁生物が生息する透明度の高い “きれいな海”は、海水中の栄養塩(窒素やリンを含む塩)が少なく、植物プランクトンなどの一次生産者の成長が抑制されている「貧栄養海域」でもあります。栄養塩の少ない貧栄養海域にもかかわらず、サンゴ礁生物が豊かな生態系を維持できるのは何故でしょうか。その理由の一つに、サンゴ内に共生する「褐虫藻」の働きがあります。


サンゴ礁生物に共生する褐虫藻

 褐虫藻とは、大きさが10 µm (1/100 ミリメートル) 程度の球状の藻類で植物プランクトンの一種です。宿主となるサンゴ礁生物の内部で生息しています。宿主は、褐虫藻の作り出す光合成生産物を利用して生存・成長していることがわかっています。逆に褐虫藻は、宿主の代謝物を栄養塩として利用するため、互いに利益を得る相利共生関係が成り立っています。その一方で、生物の生命維持に欠かすことのできない微量な金属元素 (生体必須微量元素) については、サンゴ礁生物がどのようなプロセスで摂取しているか明らかになっていません。

サンゴ礁生物と共生関係にある褐虫藻の顕微鏡写真


サンゴと褐虫藻との共生関係を分析化学の視点から解明する

 私たちの研究室では、サンゴや褐虫藻、そして海水に含まれる微量金属の分析を行い、分析化学の視点からサンゴと褐虫藻の共生関係を解明する研究を行っています。

(左) 研究室で飼育しているアザミサンゴ  (右) ICP-質量分析装置による分析の様子


 これまでの研究結果から、ヒメジャコガイ (Tridacna crocea) という二枚貝では、褐虫藻が海水から生体必須元素である鉄や亜鉛などの微量金属を抽出して、微量金属を宿主の軟部組織に提供する上で重要な役割を果たす可能性があることが分かってきました1)。現在は、サンゴと褐虫藻の共生関係について研究しています。この共生関係は海水温の上昇や酸性化などの環境変化に鋭敏なため、今後、環境変化との関連性も探る予定です。一方、サンゴ礁周辺の海水を1年間にわたり長期的に分析した結果、サンゴ礁の海水では、サンゴから分泌された粘液によって、短期的に微量金属の濃度が上昇する可能性があることも分かってきました2)。

サンゴから分泌された粘液


 私たちの研究室では現在も、琉球大学とコラボレーションしながらサンゴの飼育実験や分析を進めています。また、琉球大学にも赴き、サンゴ礁やマングローブ林などの豊かなフィールドを体験しています。

(左)琉球大学でサンゴ礁生物の飼育を見学 (右)沖縄のマングローブ林の生態系をカヤックで体験


環境分析学研究室

伊藤彰英 教授


1) A. Itoh, N. Kabe, S. Kawae, S. Hisamatsu, Y. Nakano, Y. Zhu: Multi-element profiling analyses of symbiotic zooxanthellae and soft tissues in a giant clam (tridacna crocea) living in the coral reefs and their intake process of Zn and Cd, Bull. Chem. Soc. Jpn, 90, 520-526 (2017).

2) A. Itoh, S. Ganaha, Y. Nakano, Y. Zhu: Elemental characteristics and biogeochemical cycles of trace metals in coastal seawater around coral reefs elucidated by multi-element profiling analyses, Estuar. Coast. Shelf Sci., 240, 106779 (2020).  [https://doi.org/10.1016/j.ecss.2020.106779]