気候変動でノーベル物理学賞、真鍋淑郎博士!

地球科学分野で初めてのノーベル物理学賞!

 2021年のノーベル物理学賞は「複雑なシステムの理解への画期的な貢献に対して」として、真鍋淑郎博士(プリンストン大学)とKlaus Hasselmann博士(マックスプランク気象学研究所)が「地球の気候の成り立ちとそれに対する人類の影響に関する理解の基礎を築いたこと」と、Giorgio Parisi(ローマ・サピエンツァ大学)が「無秩序な物質とランダムなプロセスの間の相互作用の理論に関する画期的な貢献をしたこと」で受賞しました。日本出身の方は2年ぶりの受賞、地球科学分野では初めての物理学賞ということで、大きな話題になっています。

 地球温暖化は、人類が現在直面している大きな問題です。真鍋博士は、1960年代に地球の気候を表す物理モデルを開発して、大気中の二酸化炭素の濃度が増加すると地球表面の温度が上がることを示しました(次の図)。Hasselmann博士はその約10年後に、気象がカオス的に変動するにもかかわらず気候モデルの予測結果が信頼できることを示したほか、気候変動の中で自然現象と人間活動による変動を区別して同定する手法を開発しました。ノーベル財団による受賞の発表で「気候に関する私たちの知見は、しっかりとした科学的根拠と観測事実の厳密な分析に基づくものである」と述べられたことは、気候変動の研究にとって大きなマイルストーンです。

真鍋博士が基礎を築いた地球温暖化研究

 真鍋博士は、1960年代〜1980年代に、地球温暖化の主な特徴を世界に先駆けて次々と示しました。

 ・二酸化炭素の大気中濃度が2倍になると地上気温の地球全体の年平均で約2.4℃上昇する(次の図)

 ・陸上は温まりやすい性質のため、海上よりも気温上昇が大きくなる

 ・高緯度では、温暖化すると積雪や海氷が融解して熱吸収が大きくなり、気温上昇が大きくなる

 ・南極の周りでは、海洋の深海に達する海洋循環によって温暖化のエネルギーが吸収され、気温上昇は小さい

これらの特徴は、最新の気候モデルによる予測結果でも変わっていません。そればかりか、その後蓄積された観測データからも実証されています。

 真鍋先生の気さくなお人柄が随所で紹介されていますが、とてもエネルギッシュな方で、日本の研究所にいらした頃、研究所の中をいつも小走りで移動されていたことや、いつもニコニコと本当に楽しそうに、止めどなく研究のお話をされていたことが印象に残っています。

 環境科学科では、気候変動の観測データや地球温暖化の予測結果を使って、環境への様々な影響について学んでいます。

(特任助教 高田久美子)