【気候変動と環境影響03】海洋の変動と魚の回遊

気候変動は私たちの環境に様々な影響を及ぼします。気候変動勉強会の第3回第4回で取り上げられた様々な問題点をシリーズ「気候変動による環境影響の問題点を洗い出す!」でご紹介します!

その3「海洋の変動と魚の回遊」

Q1. 海はどれくらい変動しているの?

 気温や雨の降り方が日々変化するのと同じように、海水温や海流も日々変化しており、気候変動の主な要因の一つになっています。日本近海の代表的な海流、黒潮は東シナ海から北上し、四国から本州南方では海岸にほぼ沿って流れる「非大蛇行流路」をとるときと、紀伊半島沖から伊豆半島沖まで南に大きく蛇行する「大蛇行流路」をとるときがあります。黒潮大蛇行は一度発生すると1年以上続くことが多く、現在、2017年8月から大蛇行が3年半以上継続しています。

本州南岸を流れる黒潮の典型的な流路。1と2が非大蛇行流路、3が大蛇行流路。(気象庁)


東海沖での黒潮流路の最南緯度の変化(1961年1月〜2020年12月)。

オレンジ色は黒潮大蛇行の期間。(気象庁)


Q2. 黒潮大蛇行が起こるとどんな影響があるの? 

 黒潮大蛇行が発生すると、蛇行した黒潮と本州南岸の間に深い海から冷たい水が湧き上がり、冷水塊が発生して、周囲の気象や漁場に影響を与えます。これまで、冷水塊によって気温が下がるとされていましたが、最新の研究で、大蛇行期に関東〜東海の沿岸に出現する黒潮分岐流によって海岸沿いに海水温が上昇し、関東地方の沿岸域で夏の気温が上昇することがわかってきました。また、黒潮大蛇行によって沿岸のシラスから沖合のカツオまで、さまざまな漁場の位置が大きく変化するため漁業関係者の大きな関心事になっています。


黒潮大蛇行による関東地方の夏の気候への影響の模式図(Sugimotoほか、2021)


Q3. 海水温の変動で魚の回遊(移動生態)が変わる? 

 黒潮大蛇行のような海流の変動だけでなく、海水温の変化も魚の生態に大きく影響を及ぼします。近年、日本付近では海面水温が100年あたり0.8〜1.7℃上昇しており、これまで西日本以南でしか水揚げされていなかった魚が東北地方で水揚げされるようになるなど、漁獲量への影響が懸念されています。漁獲量を正確に予測するためには、魚がどのように回遊しているか、その移動生態を明らかにすることが必要ですが、まだあまりよくわかっていません。

 麻布大学環境科学科では、寄生虫を手がかりに魚の移動生態の調査に取り組んでいます。例えば、食中毒で知られるアニサキスは、さまざまな魚やイカに寄生しており、日本海側と太平洋側で異なる種類が卓越することがわかっています。このことを利用して、魚に寄生しているアニサキスの種類から魚の回遊経路の調査を進めています。魚の移動生態を明らかにすることによって、漁獲量の予測に役立ちます。

(アニサキスは、オキアミ(小型のエビ)などの甲殻類に取り込まれると発育します。このオキアミが餌として魚やイカに捕食された場合は、幼虫のまま寄生し続けます。そしてクジラなどの海獣類に捕食されると、そこで成虫になります。)


重点施策事業(気候変動)高田久美子 特任助教

協力:坂西梓里 特任助教


参考文献:

(1) Murazaki et al. (2015) J. Meteor. Soc. Japan.

(2) Sugimoto et al. (2021) J. Climate. (https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2021/03/press20210304-01-kuroshio.html)

(3) 美山「黒潮親潮Watch」(http://www.jamstec.go.jp/aplinfo/kowatch/?p=5878)